
鵜の目鷹の目、世界の目!
「世界を見る目」を養おう! それも一方向からの見方にとらわれず、水中からや地べたから空を見つめているであろう鵜の鳥の地道で懸命な目線も忘れず、空から地上を俯瞰する鷹の鋭い大局観にも学びつつ、世界の諸問題を一緒に考えようではありませんか? そして独りよがりに陥らず、他者の意見も取り入れ、世界の批判も受け入れながら、より良い日本社会を作り上げるべく一歩一歩進もうではありませんか?
=Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
=Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye,
=Embrace the views of the world.
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私は38年間にわたる商社生活(この内23.5年間の海外生活)と12年に及ぶ造船所生活、そしてその間、様々な異業種交流・国際交流を経験し、現在は、個人勝手事務所を設営し、自らの経験なり僅かながらの知見を次世代に伝えることにより、仮にも、若い人たちの思考、姿勢が停滞気味、閉鎖状況にあるものであれば、これを開き背中を押すようにしたい、との願いを持つものです。大それた物言いをいう様ですが、已むに已まれぬ思いに突き動かされての妄言であります。 ご寛恕頂き、仕事に、生活に、海外との交流の場の一つのヒントとして、お読みいただければ幸甚です。
私は、過去半世紀以上にわたり、米、英、日の地において、New York Times、 (London)Times、Economist、日本経済新聞等をフォローしており、勿論他にも多数の有力紙があるなか、可能な限り幅広い考え方を取り入れ、ビジネスの指針の一としてきております。
まだまだパンデミックは収まらず、自らの行動にも制限を加えなければならない中、そして個人での行動範囲、容量には制約もあり、先ずは、NYTをベースにして、「こう言ってますよ、こういう見方もありますよ」という記事を抄訳スタイルで紹介し、時には私自身の意見、論評も加えつつ、皆さんとの意見の交換をできれば、と願っております。 2021年9月から始めており、アップデートしてゆきます。
モリシップラン 森島英一
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TABLE OF CONTENTS

2024年10月29日 鵜の目鷹の目、世界の目
Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye, Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.
HM註):-
ΣΣΣ 2024年度ノーベル経済学賞受賞者から世界への警句 ΨΨΨ
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今年のノーベル経済学賞受賞者の一人、ダロン・アセモグル博士(MIT教授)がNYTに寄せた一文です。主として米国経済の今後に焦点を合わせた分析と警告ですが、読むうちに、ほとんどすべての局面において、日本の、そして日本経済の今後を占うものとして受けることができる一文です。さもありなん、米国と日本は多くの経済要因、国家事情において共通するものがあり、政治的にも同盟国であり、似たような悩みと問題を抱えています。(両国の国土規模、人口、歴史、人口構成等々、大きな違いはあるものの。)
通常の私の拙文は、記事の主要部分につき抄訳のみを施し、詳細は箇条書きで紹介することが多いのですが、本記事については、読むにつれ心当たりのある、納得できる内容が続いており、「抄訳に留める」にはもったいない、との気持ちが強まりました。冒頭から九つ程の英文段落は全訳する結果となり、今回のコラムは結果的にやや長文となっています。
2024年10月22日 鵜の目鷹の目、世界の目
Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye, Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.
経済上の嵐が近づいて来ている
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Economic storms are approaching
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(New York Times International 10/22/2024 issue:
by Daron Acemoglu)
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米国のインフレは収まりつつあるように見える。
労働市場は依然として健康体だ。賃金水準は最低賃金層を含め上昇傾向にある。
しかしこれらは嵐の前の凪(ナギ)にすぎない。
嵐が近づいている、そして米国民はそれに対する用意ができていない。我が国に迫り来るのは、米国経済を変貌させる様な三つの画期的変化現象だ。それは、老齢化する人口、AI
(人工知能)の台頭、そしてグローバル経済ネットワークの再編成だ。
これは驚くほどのことではなかろう ― これら三つの事象はすでにはっきり目に見える形で着実に進んでいるのだから。ただ、充分に理解されていないのは、これら三つの変化が相伴って、1970年代後半以来、類を見ない程の変革を労働者階級の生活にもたらすものとなりそうだということだ。
対処の方法を間違わなければ、これらの事象は一体となって、働き方改革につながり、生産性、賃金、雇用機会の飛躍的な向上をもたらしてくれるであろう ― これらは、いわゆるコンピューター革命なるものから当初に期待されたが未だに実現されていない変革だ。
逆にこの現象の扱い方を米国民が間違えれば、快適にして高所得な職を少なくし、経済全体の活気を失わせることとなろう。これからの5年ないし10年にかけての我々の心構えが、我々の辿る道を決定することとなろう。
我が国の、機能不全状態にある政治体制には、これらの情勢変化への対応はムリであろう。カマラ・ハリス副大統領もドナルド・トランプ前大統領も、それぞれの選挙活動においてこれに真剣に取り組めていない。
米国の労働人口はこれほどの老齢になったことは過去にはない。(この段落、中略)
製造業や建設業においては、労働者は身体的な強さやスタミナが必要だが、これも年齢と共に失われてゆく。
他方、起業精神に富み、リスク・テイクを恐れないのは若い世代であり、米国のみならず諸国が渇望している働き手だ。
過去30年にわたり、日本、ドイツ、韓国の諸国は、現在の米国の二倍のスピードで老齢化が進んできている。
つまり、米国としては参考となる見本があるわけだ。例えば、朗報として言えるのは、これら各国は他の産業国家に比し、成長速度が遅れているわけではなく、これらの国の産業のいくつかの労働集約セクター ― 自動車、機械工具、化学などのセクターにおいて苦しんでいるわけでもないのだ。
理由は簡単だ ― これらの国では、若年従業員がやるべき仕事を産業ロボット等の自動化技術で賄う新規設備投資を導入したのだ。
これら三国は、これに加えて、産業自動化を支えるための仕事をこなせるように労働者教育へ投資した。
(米国では、人への投資ができていない、又は、民間に投げたままとなっている、とのコメントの後に:―)例えば、台湾のTSMFが、米国での先進技術労働者不足のため、米国での半導体工場開設を延期せざるを得なかった(HM註:日本の熊本では開設していますね)。
同じ間違いを起こさぬため米国がやるべきことは、AI技術に対応できる人材の育成だ。コンピューター関連及び事務職関連の認知タスク系業務の自動化を進めることに加え、更に進んで、人の行う経営上の意思決定プロセスのためのより良い情報提供を実現すべきであろう。但し、これはすぐには実現できない ― 2024年2月現在、米国の企業でAIを活用するに至っているのは5%に過ぎないと報告されている。又、AI技術自体、未だ完成体には程遠い状態だ。アメリカは幅広い当該国家戦略を策定した上、AIが単に仕事の自動化を行い、労働者を削減するだけのものに留まらず、技術労働者のため、逆に新しい課題とこれに対応する能力を作り出す手助けとなるものとして展開されるべきだ。
しかしながら、間違った方向に進む気配がある ― 老齢化にうまく対応できていないのと同様、このAIという新しい波に乗り切れない様相を呈している。 産業界は、AIと言えば、「人口総合知能」、つまり、人間そのものにソックリな機械を作り出したい、という幼稚な夢に囚われているのだ。そしてこの技術をデジタル広告ビジネスや自動化に利用しようという域に留まっている様だ。
(中略)
グローバリゼーションは別物の様に見えるかも知れないが、(老齢化とAIとの)大きな共通点がある。
ソ連邦の崩壊の後に来た、急速な、そしてほゞ抑制の無いグローバリゼーションは今や終わった。
なるほどそれは、西側の消費者と多国籍企業に利益をもたらした(低賃金の外国人労働者の活用により)が、国内労働者にとっては、メリットは無かった。
それでは、グローバリゼーションの替りになるものは何なのか、は、はっきりと見えていない。
それは、細分化されたシステムで、各国は同盟国や友好国との交易 ― 今日の交易形態と、ほゞ同様のものであろうが ― となるかもしれない。或いはそれは、高関税で小規模のものかもしれないし、貿易制限と産業政策(例えば、現行バイデン政権下のインフレ抑制法やCHIPS法などの、先進電子機器、電気自動車、再生エネルギー技術等を米国内で優遇するような)の組み合わせかもしれない。
しかし、こうした変革も一朝一夕では実現できそうにないし、実現のためには、政、官、産、労、使、学、各層の努力と覚悟は必須であろう。しかし、これらの新しい潮流を組み合わせて一つの力にすれば進展するという希望もある。適切なAI技術を最大限に活用すれば、老齢化問題とグローバリゼーションの形態変化という課題の解決に向かうことができよう。
心配なのは。これらの重要な問題点になかなか注目が集まらないことだ。
これらの課題は、現在、「やいのやいの」と議論されている価格つり上げ防止策とか、チップへの課税をどうするかとか、インフレ率が1%上がったとか下がったとかの諸点よりはるかに大事なことなのだが。
これらの重要点に焦点を合わせ毅然として行動しないと、全体がうまく行かないであろうし、暗い労働環境に繋がるだけとなることを恐れる。
(ダレン・アセモグル氏=Daron Acemoglu は、MIT=マサチューセッツ工科大学教授、
2024年度ノーベル経済学賞受賞者)
(HM註:記事全文コピーと関連イラストはファイルにあり)
2024年10月19日 鵜の目鷹の目、世界の目
Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye, Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.
電力使用量急増が排出削減の妨げに
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Surging electricity use hinders emissions cuts
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(New York Times International 10/17/2024 issue:
by Brad Plumer)
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(抄訳)
クリーン・エネルギー源の開発促進努力が、多くの国で困難に直面。
IEA(International Energy Agency = 国際エネルギー機関)が昨日発表したところによると、世界の電力需要が予想以上に高まって来ており、各国政府の大気汚染ガス排出削減と地球温暖化抑制が困難になりつつあるとしている。同機関の世界エネルギー動向に関する年次報告によると、今後10年間の毎年において、世界は、日本一国の年次電力需要相当分を追加供給してゆく計算となろう ― これは、世界中の新規工場建設、電気自動車の普及、エアコン、データ・センター新設などによる電力需要急増によるものである、と。
まとめると、同機関は、昨年発表した数字より更に6%高い世界電力需要が2035年に見込まれるとしている。
ただ、これはまるっきり暗いニュースとは言えない: この報告書によれば、各国において、今後10年以内には、これに対応できる低排出型発電所が建設される見込みだ ―
太陽光、風力、原子力を中心として。再生可能エネルギー発電の急速な成長により、少なくとも、全世界の排出量が急激に増えることは防げようし、石炭、石油、天然ガスの使用はこの10年でピークを打つものと期待される。
しかし一方では、各国が打ち上げた目標の、今世紀半ばまでには排出量をゼロに持ってゆくと言うのは、手の届かないものになりつつあるようだ。 前述の各セクターにおける電量需要の急拡大により、再生エネルギー設備の拡大も、追いつかなくなっている。
同機関によると、現在の各国政府施策により、世界全体の二酸化炭素排出量は2030年までにホンの3%削減される見込みであるが、昨年国連の気候変動対策会議で議決された野心的な目標を達成するためには、この10年以内に33%の排出量削減が必要なのだ。
中国における電力発電・送電のアップグレードが必要となって来ているし、欧州では、ガス価格の落ち着きにより電力ヒートポンプの生産販売がスローダウンし、米国では、送電設備の不足により多くの風力発電事業に遅れが生じている。他方では多くの国で、化石燃料見直しの動きが出てきている。
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(HM註)
上記の様な現実的な問題点が続出している上に、多くのエネルギー関連企業が、社会・消費者対策として、必ずしもホンネではないエネルギー対策への動きを打ち上げる傾向 ― いわゆる「グリーン・ウォッシング」(green-washing = 見せかけの環境対策)― が見られることが、理想と現実のはざまにあって、今後の課題となりましょう。
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2024年10月07日 鵜の目鷹の目、世界の目
Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye, Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.
愛国の念からの唯一の大統領候補
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The only patriotic choice for president
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(New York Times International 10/2/2024 issue:
The Editorial Board)
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(抄訳)
米国大統領候補として想定するにふさわしくない人物はドナルド・トランプをおいて他にいない。 私利私欲を超えて国益を追求すべき職責に、道徳的適性がないことを彼は既に実証しているのだから。彼は、叡智、正直、共感、勇気、自制、謙遜、規律、と言った資質が必要とされる役割に気質上不適格であることを自ら実証しているのだ。これらの資質が全て欠落していることに加え、彼に課されている多くの犯罪容疑、老齢化、政治政策へ
の基本的な無関心さ、そして彼の人脈に懐疑性がいや増していること等は全て、大統領責務の遂行を制限するものとなっているのだ。
この紛れもない、悲しい事実 ― ドナルド・トランプは大統領に不適だという ― だけが、我が国の健全性と我らの民主主義の安定性を希求する有権者一人一人が、彼の再選を拒むに十分な根拠である。
この理由により、有権者の中にはカマラ・ハリスに対し政治上の異論を持つ人もいるかも知れないが、それでも尚、ハリスが、愛国の念をもってすれば唯一の選択肢となる。
(下記は追加の具体的項目列記を抄訳)
*通常の大統領選挙は、政策論議、目標論議、理念論議となるべきところが、今回は、もっと基本的な、根底の人格論となる ― トランプが、強い米国を支えてきた価値基準と制度を破壊し分断するもの以外の何ものでもないのに対し、ハリス氏は、公僕としての経歴、能力、遵法性において抜き出ている(stand alone)。
*ハリス氏の政策と経歴(副大統領、上院議員、州司法長官としての)から発露された、市民と未来を共有する姿勢 ― 憎悪と分断を超えた ― をベースにアメリカの全家庭に手を差し伸べる諸計画を打ち出している。 持ち家支援政策、中小企業支援対策、労働者支援対策等。
トランプ氏の経済上の優先策は更なる減税(富裕層寄り)と関税の更なる引き上げ(物価高に繋がる)だ。
*外交面において、ハリス氏が長年の同盟協力関係を結ぶ諸国との関係維持・強化を謳う一方、トランプ氏はプーチン、オルバン、キムといった独裁者との好関係を吹聴しつつ、民主主義各国との同盟関係を破るかの如き脅しをかけている。
*トランプ氏の側近や部下であった多くの人々が、そうであったが故の体験を踏まえて彼からの離反、対抗を表明している。トランプ政権下の副大統領であったマイク・ペンス等々。
*2020年の前回選挙の際も、当編集陣(Editorial Board)は、当時のトランプ氏の再選に強い異議を唱えた。
*もう一度言う、カマラ・ハリスが唯一の選択肢だ。
(全文及び関連写真ファイルにあり)
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(HM註)私が本記事を取り上げた理由下は下記であります ― 国の行方を左右するであろう国政選挙の最重要事項としての大統領選挙にあたり、新聞がその立ち位置を明示することに一種の感動を覚えますね。種々の圧力なり危惧なりを乗り越えて、読者にアッピールする、と言うのは、日本ではないですね。これは以前から見聞きしておりますが、新聞社であれTV局であれ、例えばA社はX氏を支持表明、B社はY氏、と言うことでこそ、民主的な選挙への参画、啓明、訴えとなるもので、日本も、「右へ倣え式報道」、「世論におもねる報道」、」「何でも反対野党」では民主主義の将来はありません。
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2024年09月09日 鵜の目鷹の目、世界の目
Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye, Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.
無料の電力の使い道は?
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(ニューヨークタイムズ紙の意見書)
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What will we do with our free power?
(New York Times International 8/31-9/1/2024 issue:
David Wallace-Wells, Author of “The Inhabitable Earth”)
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(抄訳)
エネルギー代が「安くって、メーター管理する意味が無い」ほどになる、と言うのは、長年のSF小説的な夢であった。
それが将に現実となろうとしている ― 太陽光発電のコストがゼロに向かって急降下しているのだ。
「太陽光分野における世界の進展度は信じられない程のスピードだ」と述べるのは、Bloomberg NEF(⇒BNEF⇒研究調査会社)のアナリストで、太陽光発電ビジネスについては、おそらく世界で最も精通している専門家、Jenny Chase 氏だ。「今将に革命が起きつつあります。もうすぐそこ2030年までには、世界のどこにおいても、そしてほとんど通年、晴れの日においては太陽光発電が、全面的且つ信頼できるレベルにおいてコスト・ゼロとなるでしょう」、とチェイス女史は予想する。
BNEFによると、2023年、全世界において444ギガワット分の太陽光発電装置が新設されている。この数字がどれほどの規模を意味するのか、通常人のアタマでは判断しにくいが、これは恐ろしいほどの進歩を表すものの由: それは前年比88%増の数値であり、又、太陽電池が発明された1945年から2017年の72年間の設置量総数を上回る数字なのだ!
それでも現在の太陽光発電は世界中の電力の6%を賄うに過ぎないのだが、このシェア数値は、2018年以来4倍に増えており、これからも続くであろう幾何級数的上昇カーヴを示しているのだ。
雑誌「The Economist」最近号の特集記事に曰く、「10年前に現在値の10分の1であったころ、太陽光は、その増加傾向を熟知していた専門家群においても、まだまだ全体の中での存在感が過小評価されていたものだが、これが次の10倍増となると、現在の原子力発電設備の総計の8倍に匹敵する発電量となり、設置作業年数総計は、原発一単位を建設するだけの時間で済む、というものだ」 そうなると、2030年 ―余り遠くない将来だが ― には、太陽光発電は地球上の電力源として最大のものとなりそうなのだ!
更に驚くべきことは、規模だけではなく、コストだ。一つの計算によると、現在の太陽光発電のコストは、1960年代にヒッピー族や環境保護主義者達が家々の屋根にパネルを置くべきだと言い出したころの1000分の1以下となっているのだ。
(中略 ― 更に詳細レポートが続く)
ここで課題となってくるのが、この莫大な量にして限りなく安くなる電力を、如何にして貯蔵し、輸送するかという問題だ。
(一つの例として、オーストラリアからシンガポールに太陽光電力を長距離送電するプロジェクトが挙げられている)
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(本記事全文及びイラストがファイルにあり)
{HMコメント}
これほどの存在感を持つに至っており、今後も飛躍的に伸びるとみられる太陽光発電ですが、それでは、日本もこれに乗っかって本格的にやるのか?
という問題に対する答えが必要ですね。ご存じの通り、日本では、太陽光に加え、風力発電(山間部及び海上)、水力発電、バイオ燃料による発電、水素、アンモニア、或いはその他の新燃料を利用した発電等々、地球環境を守り抜くための種々の方策につき、種々の企業の事業計画と政府施策が実験、試行されつつありますね。いまここにおいては、この大きな問題の中の、太陽光だけに焦点を置いて考えてみても、世界各地で、上記の記事に沿った形で、超大規模太陽光発電(メガソーラー・プロジェクト、或いはギガ・ソーラー?)がおこなわれる場合、この日本という狭い国土において、他の大国(国土が広大だということですよ)、アメリカ、アフリカ諸国、中国、オーストラリア、アラビア半島地域等が本格的にやれば、それこそただの様なコストで発電が可能となるものにて、日本ではそこまでの「規模の経済」(⇒Economy of Scale)を到底実現できない、実現しようとすると、狭い国土はメガ・ソーラーだらけで、美しい緑豊かな山間部は、二酸化炭素を吸収してくれる貴重な樹木を伐採し、巨大なソーラーパネル群、送電塔群や或いはもう一つの「自然」エネルギー源と謳われる風力発電塔群と言った人工構造物(その建設・製造は膨大な二酸化炭素の排出を伴う!)により、「ガラスの鎧をまとった巨大ハリネズミ」の様相を呈する(自己矛盾そのもの)ばかりか、人の住み場所が無くなりますね。せいぜい、住宅の屋根にパネルを張るとかの小さなやり方しかできないし、それ以上はムリでしょうね。
これに対処するためには、思い切った海外投資と、長期同盟契約的なものにより、スペースに余裕のある海外で超大型、超低コストで発電し、これを貯蔵、輸送、送電する技術を開発するという国際分業体制の確立を長期的視野、計画(政府も関与した)により進めるべきと考えますが如何でしょうか?
勿論、日本の物理的態勢においても可能な発電 ― 例えば、水素、アンモニア燃料の利用、核融合発電の実現といった方策も追及すべきでしょうが、この恐るべき、拡大とコストダウンが見込まれる太陽光は要注目であり又、通常のやり方ではすみませんね。
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2024年07月02日 鵜の目鷹の目、世界の目
Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye, Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.
アメリカのため、バイデンは戦列を離脱すべきだ
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(ニューヨークタイムズ紙の意見書)
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For America, Biden must leave the race
(New York Times International 7/1/2024 issue
The Editorial Board)
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(抄訳)
バイデン大統領自らが繰り返し、そして正しくも言ってきているように、本年11月の大統領選挙は米国の民主主義の行先を占うものだ。
ドナルド・トランプは自ら、その米国民主主義への重大な危険信号であることを顕わにしてきた ― 支離滅裂にして自己利達に走る人間で、およそ社会の信頼に値しない人物である。
彼は周到に、選挙の高潔性を崩し去ろうと試みて来ている。
彼の支援者群は2025年予定表なるものを公表しており、そこでは、彼をしてその公約と脅しを徹底して実行せしめる権限を与えるがごとき図式を展開している。
そうなると、もし再選される場合、米国の政治運営制度に組み込まれている大統領権限への歯止めに囚われない、違った種類の大統領になるのだ、と彼は息巻いているのだ。
バイデン氏は、自分こそ、この独裁の脅威に向き合い、打ち負かすベスト・チャンスを持つ候補者だと言う。
その論拠はと言うと、彼が2020年にトランプ氏に勝利した事実である。
しかし今やこれは、バイデン氏が今年の民主党候補たるべきとの充分な理由付けとはならないのだ。
(以下要約)
先週木曜日に行われたテレビ討論で、現在でもバイデン氏は、更に4年間の国民の期待に十分沿えることを証明する必要があったが、有権者の目にはとてもそう映らなかったのだ。
その言葉は弱く、しどろもどろであった。
バイデン氏は愛すべき大統領であったし、実績も残した。
しかし今や、バイデン氏ができる最善の貢献はと言うと、再選を取りやめるということを発表することである。米国民が眼前に見るバイデン氏の老齢と衰弱から目を背けてくれるであろうと期待するのは、大きすぎる賭けであろう。
―――
(HM註):
本文は、NYTIの第一面及び継続記事としてかなり詳細にわたり述べられた意見書です。記事の冒頭及び記事末尾に、これの文責は、Editorial Board だが、これは、通常の社説と言うより、本紙に常時寄稿する複数のopinion writers (意見論者)の集合体との注記あり、各自の知見、調査結果、相互討論、そして長期的価値観を持ち寄り一つの立場としてまとめたものの様です。Editorial Board は、newsroom(編集室)とは別個のもの、と明記あり。
通常、Editorial と言う場合、「社説」を意味することが多いが、ここでの「Editorial Board」は、必ずしもNYT紙の公式スタンスを述べているものではなく、通常のOpinion Column の執筆者群がまとめた一つの意見とでも言いましょうか。
この記事の後、バイデン氏が家族と過ごしたキャンプ・デーヴィッド(大統領別荘)において、家族は、「あくまで戦い続けるべきだ」、との意見であった様子、として報じられています。
(一連の弊コラム「鵜の目鷹の目世界の目」については、NYT紙極東地区担当課長に報告しており、理解を得ております。)
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2024年06月24日 鵜の目鷹の目、世界の目
Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye, Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.
あの大富豪が原発事業に進出
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Billionaire makes a bet on nuclear power
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(New York Times International 6/20/2024 issue
Business Column by Brad Plumer and Benjamin Rasmussen)
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(抄訳)
今、ワイオミング州南西部にある小さな炭鉱地域において、米国の原子力発電の新世代版初号機建設計画(それは何十億ドル単位=何千億円相当の事業規模となる)が進行中だ。
建設作業は先週始まったが、その目指すところは、旧型の図体だけ大きい反応炉ではなく、小型にして低コストな新型原子炉で、この地球温暖化のもととなっている二酸化炭素を排出することなく発電できる設計となっているものだ。 この原子炉は、TerraPower(テラパワー)というスタートアップ企業により建設中だが、完成は早くて2030年と見込まれており、まだ種々の悩ましい問題を抱えている。 NRC(=Nuclear Regulatory Commission = 原子力規制委員会)は未だ設計認可を与えておらず、同社は、事業の遅れとコスト・アップの問題を解決しなければならない ― これらの問題は、これまで多数の原子力事業新計画の頓挫の原因となってきているのも事実だ。
しかし、テラパワーには、影響力と大きな財布を持つ創設者がいる。 現在世界で7番目の大富豪であるビル・ゲイツ氏が、テラパワー社に10億ドル(=1600億円相当)以上を注ぎ込んでおり、更に増額支援も考えている様だ。
「気候問題に意を致すと、原子力活用を考える必要がある場所が世界中にいっぱいあります」と、先週行われた現場近くでの記者会見において、ゲイツ氏は発言した。「私は、お金を儲けるためにテラパワーに関与しているのではありません。 この種の原子炉を多数建設する必要性を強く感じるから参画しているのです」と。
マイクロソフト社の元社主、ゲイツ氏が気候変動対策の最善策と信じるのは、化石燃料に競合しうるクリーン・エネルギーを産み出す技術革新であり、これは、同氏の2021年発刊の著書<How to Avoid a Climate Disaster> (=「気候変動災害を避けるための方策」)において明らかにしている哲学である。
今や米国全土において、原子力は新たな関心を呼び起こしつつあり、いくつものスタート・アップ企業が小型原子炉建設計画を打ち上げている。これに呼応して、バイデン政権はかかる新規事業に対して大掛かりな税額控除策を提唱している。
以下、抄訳及びキーワード、人名:
― Mary Crosby: 地元住民で文筆家 ― 賛同。
― David Crane: エネルギー庁次官
― ビッグ・データ・センター、自動化工場、電気自動車向け供給、脱炭素化考慮により、期待大。
― ビル・ゲイツ氏: ― 風力、太陽光にも期待するところ大だが、これに並ぶ安定的エネルギー供給策として原子力が必要 ―
― テラパワー社の技術利点の説明。
― Chris Levesque (テラパワー社社長):同社の発電コストは、在来原発コストの半分となろうし、安全性も高まる。更には、発電調整も容易となる。
― David Schlissel, Director at the Institute for Energy Economics and Financial Analysis
(=エネルギー経済学及び金融分析研究所): 最近の多くの同種事業が、遅れとコスト・アップに悩まされている。 例:アイダホ州在「Nu-Scale」社の蹉跌。
ー PacifiCorp.: 米国西部6州への電力供給を行う発電・配電会社で、テラパワー社の新規案件により生まれる電力の購入を計画している。
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(HM注)
日本では、2011年の東北大地震に伴う原発事故により、原発への拒否反応が広がっている。
世界における原発事故と言えば、1979年の米国スリーマイル・アイランド事故、1986年のウクライナ・チェルノブイリ事故があるが、米国における原発への拒否反応と言うのが余り強く見られないのは、時間の経過だけなのであろうか、それとも、自国の技術、経済、政治への自負心から来るものであろうか。
日本は、まだまだその精神的後遺症、現実の経済・社会問題等が解決されておらず、拒否反応が強いのも致し方ない面もあるかも。
その中で、本記事は、米国での、小型、簡便型原子炉建設計画が出てきており、政府も後押しする動きとなっている。
これらは、fission (核分裂型)とfusion(核融合型)に分かれており、新しい、安全且つ安価な小型核融合プラントが注目を浴びている様子。
当方の本コラム「鵜の目鷹の目世界の目」においても、何度か取り上げてきているが、
この内、10/20/2022号、1/4/2023号、4/12/2024号での紹介記事も参考になると思います。
(引用記事英文全文保管あり。 写真もあり。)
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2024年04月12日 鵜の目鷹の目、世界の目
Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye, Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.
米国原子力産業界は、依然として小型原子炉開発に楽観
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(U.S. nuclear industry still optimistic on small reactors)
(by Thomas Urbain, New York AFP-JIJI carried on Japan Times April 9, 2024)
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(抄訳)
次世代型米国製原子力発電設備が最近になり開発ストップになったが、カーボン・フリー発電の支援者は、新規プロジェクトがこの10年内には軌道に乗るものと期待している。
昨年末、米国のエネルギー企業「ニュースケール」(NuScale)は、米国西部のアイダホ州で進めていたSMR(=small modular reactor; 小型モヂュール核分裂炉)開発計画を中止すると発表した。
本計画は、米国原子力規制委員会(USNRC)の認可対象となっていた唯一の事案であったが、急激なコスト・アップに見舞われ、予想建設コストを53億ドルから93億ドルとする必要に迫られたための計画中止である。
しかし、S&P Global Commodity Insights社のアナリスト、メイソン・レスター(Mason Lester)氏によると、他にも同種の開発計画があり、例えば、カナダのオンタリオ州ダーリントン市において、GE-Hitachi が新設計「BWRX-300」という名のSMR デザインにより2029年には発電開始の計画を進めている。「政府承認を経た上で、新発電炉の建設作業は2025年に開始の予定だ」と、オンタリオ発電会社は公表している。米国南部の数州にまたがる電力供給を行う米国連邦政府所有の電力会社TVA(Tennessee Valley Authoprity)も、このBWRX-300 デザインに出資している。
この他、TerraPower、Ultra Safe Nuclear Coporation、グーグル、マイクロソフト、ニューコア(鉄鋼会社)の合弁事業、PacificCorp. 等の企業グループが同様の名乗りを上げている。これら複数の案件が出てきているのは、エネルギー需要の急増、特にデータ・センターによるエネルギー需要の高まりに対応するためである。
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(HM註: 本欄「鵜の目鷹の目世界の目」の21年10月20日版「核融合技術、主流に近づく」、及び、23年1月4日版「How fusion can secure our future」を参照願う。 核融合融合炉や小型核分裂炉等、種々の事案が出てきている。 脱炭素への動きが喧(カマビス)しいが、これを謳い文句にして原子力関連事業が台頭してきている。)
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2024年2月4日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.)
昨年2023年に起きた有史初めての出来事
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(20 things that happened for the first time in 2023)
(by Tricia Tisak, New York Times International Edition 1/5/2024)
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(抄訳)
(HM 註:20の事柄中、題辞に加え、抄訳を施したもの5件(★)が、私の思う、格別に大事なことです。
本記事筆者は、New York Times News Services & Syndicate 誌の編集者。本記事と関連写真はファイルにあり。)
- ロンドン市ウエスト・エンド地区でラマダン(イスラム教の行事)を祝するライトアップを開催。
- 2匹の雄ネズミの細胞から生きた子孫を創生。
★「ネイチャー」誌三月号の研究発表記事によると、日本の大阪大学所属研究者グループが、二匹の動物学的には雄のネズミを親として子孫を創生することに成功した。 この再生実験の成功は、将来における再生治療や絶滅危惧種の保存等に繋がる可能性を秘めるものだ。 - ジ・ミン、韓国のソロ・アーティストとして初めてビルボード・ヒット・チャート 首位を獲得。
- 中国通貨「人民元」が、中国国際決済通貨として初めて米国ドルを追い越す。
- 科学調査グループが、地球のマントルから岩の採取に成功。
- タイタニック号の残骸の三次元スキャンに成功、これまで以上の詳細を入手。
- 全身まひの男性、自らの思考を使い、歩行を果たす。
★「ネイチャー」誌五月号掲載の研究発表によると、10年以上前のケガにより全身まひとなっていた男性が、脳と脊髄の移植により、自らの思考を使って再び歩くことに成功した。 - 少なくとも日本の人口の10人に一人が80才以上となった。
★あわせて、厚生省発表によると、2022年には1899年に統計を開始した以降初めて、新生児誕生率が最低となった。
1.25億人の人口を有す日本は、世界でも最高齢の年齢構成となっている。 - 米国医療当局は、初めて、経口避妊薬と産後鬱治療剤の店頭売りを許可。
- 世界初のメタン・ガス燃料使用のロケットが打ち上げ成功。
- ブラジル国憲法が土着言語に正式翻訳された。
- ★インドの宇宙船「チャンドラヤーン3号」が8月に世界で初めて月面南極近くに着陸。
- AI が古代ローマ時代の巻物の文章を解読。
- ヴァージン・ギャラクティックが初めて宇宙観光飛行を実行。
★乗客は、ある母と娘、そしてオリンピック選手の三人。ヴァージンによると、この後、数百人の乗船希望者がウェイティング・リストに登録済みの由。現在のお値段は45万ドル(現行レートで6700万円)。 - マイクロプラスティック(極小プラステイック粒)が雲の中から採取された。早稲田大学の研究者が環境化学誌に発表。
- 第五分類の暴風雨(時速252キロ以上)が2023年一年間に、地球上の全ての大洋(太平洋、インド洋、大西洋を含む七洋)で発生。海水温度の上昇が原因とみられる。
- 強度致死性の鳥インフルエンザが南極にも発生。
- 世界中の司教300人がヴァチカンに集結、尼僧や女性信者も参席し、教会会議における投票権も与えられた。
- 132億年前に生成されたブラック・ホールが発見された。これはこれまでに発見された、天の川にあるブラック・ホールよりも10倍もの大きさとなっている。
- 2022年11月から2023年10月の12ヶ月間は地球にとって史上最も暑い一年間となった。
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