鵜の目鷹の目、世界の目!
「世界を見る目」を養おう! それも一方向からの見方にとらわれず、水中からや地べたから空を見つめているであろう鵜の鳥の地道で懸命な目線も忘れず、空から地上を俯瞰する鷹の鋭い大局観にも学びつつ、世界の諸問題を一緒に考えようではありませんか? そして独りよがりに陥らず、他者の意見も取り入れ、世界の批判も受け入れながら、より良い日本社会を作り上げるべく一歩一歩進もうではありませんか?
=Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
=Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye,
=Embrace the views of the world.
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私は38年間にわたる商社生活(この内23.5年間の海外生活)と12年に及ぶ造船所生活、そしてその間、様々な異業種交流・国際交流を経験し、現在は、個人勝手事務所を設営し、自らの経験なり僅かながらの知見を次世代に伝えることにより、仮にも、若い人たちの思考、姿勢が停滞気味、閉鎖状況にあるものであれば、これを開き背中を押すようにしたい、との願いを持つものです。大それた物言いをいう様ですが、已むに已まれぬ思いに突き動かされての妄言であります。 ご寛恕頂き、仕事に、生活に、海外との交流の場の一つのヒントとして、お読みいただければ幸甚です。
私は、過去半世紀以上にわたり、米、英、日の地において、New York Times、 (London)Times、Economist、日本経済新聞等をフォローしており、勿論他にも多数の有力紙があるなか、可能な限り幅広い考え方を取り入れ、ビジネスの指針の一としてきております。
まだまだパンデミックは収まらず、自らの行動にも制限を加えなければならない中、そして個人での行動範囲、容量には制約もあり、先ずは、NYTをベースにして、「こう言ってますよ、こういう見方もありますよ」という記事を抄訳スタイルで紹介し、時には私自身の意見、論評も加えつつ、皆さんとの意見の交換をできれば、と願っております。 2021年9月から始めており、アップデートしてゆきます。
モリシップラン 森島英一
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TABLE OF CONTENTS
2023年10月31日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.)
日本人芸術家、過去の人種差別発言を謝罪
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(Artist apologizes for past racist comments)
(by Robin Pogrebin, New York Times International Edition 10/23/2023)
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(抄訳)
著名な日本人芸術家、草間彌生氏(作品に、「無限の鏡部屋」シリーズの一連の大ヒットとなる展示会があり、毎回行列のできる実績あり)が、2002年に発刊された自伝の中で、人種差別的発言を行ったことにつき謝罪した ― 丁度、最近版の展示会がサンフランシスコ現代美術館でオープンとなった矢先に、これが改めて注目されることとなったのだ。
「私の著書の中で、人を傷つける攻撃的な言葉を使ったことを深く反省致しております」と、草間氏(94)は、サンフランシスコ・クロニクル紙掲載の声明により明らかにした。
「私が人々へのメッセージとして常に心掛けてきたのは、全ての人への愛、希望、思いやり、尊敬の念です。私の人生を通しての目標は、自分の作品を通じて人間同士の愛を高めたいとの想いでした。
私の言葉が原因となった苦痛につき謝罪致します。」
草間氏の謝罪は、展示会「ヤヨイ・クサマ:無限の愛」開催初日の前日に発表されたもので、彼女の自伝「永遠の網」(2002年発刊)において、黒人層を評して、「原始的な、むやみに性欲ばかり強そうな生き物たち」と述べている。
(注略)
歴代の当美術館館長が種々の失言などにより辞職や謝罪をしているが、現館長であるChristopher Bedford 氏は、草間氏について述べ、「90才を越える高齢女性となりながらも数々の見事な作品群を創作し続ける一方、彼女自身、色んな局面において種々の差別や軽視を受けた身でありながら、今回自ら進んでその差別的言質につき真摯に陳謝することというのは、誠に驚くほどの(純粋な)姿勢であると考えます」と言う。
「芸術家といえども他の一般人と同じく、マチガイはありうるもので、私共の最大の努力目標は、人々を追い込み抹殺することではなく、人々と共に、充分にそして誠意をもって考え反省することでありましょう」とも言う
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2023年10月08日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.)
米国の偽善を暴く
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(OPINION by David Wallace-Wells)
(New York Times International Edition 9/29/2023)
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(抄訳)
国際エネルギー機関(IEA)が、化石燃料需要はこの10年内にピークを打つであろう、と声高に宣明した同日に、気候変動対策を主張する団体、「Oil Change International」が公表したのは、これまでに判明している化石燃料利用拡大全計画の3分の1以上は米国の関与するものである、というものであった。加えてその翌週、バイデン大統領が気候変動は人類存続に対する脅威であると言明する中、米国全体の石油生産が過去最高記録となることも判明したのだ。
これは何の新味もない、対策実行への決意表明と(その裏にある)偽善対策が入れかわり立ち代わりする米国指導者群の二枚舌現象と言えよう。
なるほど、石炭利用からの離脱は進んでいるし、「インフレ抑制法」による再生エネルギー分野への新規投資活性化も進み、米国のエネルギー転換の促進もなされているが、他方、いくら好意的、楽観的に見ても、来る10年において米国全体の化石燃料(石油・ガス)の産出削減へのインパクトとはなりそうにないのだ。
これは世界全体についても言えることであり、いくら新エネルギーが普及しても、エネルギー全体の総需要が増え続ける限り、
化石燃料の削減には繋がらないのだ。
もう長年言われ続けていることであるが、再生エネルギー促進だけでは不十分であり、思い切って、化石燃料設備を「残置廃棄」するくらいのことをやらないと、あの世界の野心的な目標である、地球の気候温度上昇を1.5度までに抑えることはできないのであり、逆に、追加の化石燃料投資は、あの危険ラインである2度上昇も超えてしまう惧れがあるのだ。
最近の政府、公的機関、元指導者、気候運動家諸氏の動きを列挙すると
- New York Climate Week(ニューヨーク気候問題ウィーク): 「化石燃料をやめさせるためのマーチ」を冒頭に行った。
- 「化石燃料拡散防止条約」(核拡散防止条約をもじって)団体は、数ヶ国及び米国カリフォルニア州よりの支持を受けた。
- フランスのマクロン大統領、化石燃料依存からの脱却を発表。
- 元 英国首相、ゴードン・ブラウン 氏は250億ドルに及ぶ石油・ガス所得税課税を提唱。
- 元 カナダ環境大臣、キャサリン・マッケンナ氏は、石油・ガスに対する排出規制の強化を提案。
- 元 国連環境担当理事、クリスチアナ・フィゲレスは、化石燃料産業界との脱炭素化努力における話し合いを続けることを諦め、同時に、同産業関係者群を今後の気候変動対策会議から排除することを提案、宣明。
- 現 国連事務総長、アントニオ・グチェレス氏は、化石燃料業界を「気候変動危機の腐敗した核」と呼ぶ。
- 7月には、米国元副大統領Al Gore氏が、石油・ガス業界につき、「我々(一般市民)をバカにするのか?」と激しく非難した。
これらの発言は、中道派や技術系行政官から出ているものであり、以前、パイプライン敷設反対運動の際にもよく聞かれたものだが、これらは大体において美辞麗句に終わっている。
その中にあって、今月(2023年9月)初め、カリフォルニア州の司法長官が、同州知事、Gavin Newsom の手放しの支援の声をバックに、大手石油会社群を相手取り、気候変動から来る損害金として何百億ドルもの訴訟を起こしたのには、正直驚いたものだ。
同州の損害賠償請求自体は、果たして勝訴するか否か、不確かではあるものの、この訴訟自体は、石油業界の活動に対して突き付けられた最強、最大の法的異議であることは確かだ
― と言うのも、ニューサム知事自身が好んで表現するものだが、カリフォルニア州自体、単体経済として、世界第四位の規模を誇る地域なのだから。
同氏が国連総会で発言したのだが、今や彼は石油業界に喧嘩を打って出ているとみて欲しい、と言うのだ。
「現下の気候変動危機と言うのは、要するに化石燃料による危機に他ならないのだ、難しくもややこしくもない、油を焚くことなのだ、ガスを燃やすことなのだ。
そして我々はこれをやめなくてはならないのだ」とのこと。
聴衆総立ちの歓声の中、彼は付け加えた
― 「石油業界は、今ここにいる我々一人一人をバカ者扱いしているのだ!」と。
(本記事の著者、David Wallace-Wells は、本紙(NYT)の「Opinion」欄の筆者の一人であり、併せて、「The New York Times Magazine」におけるコラムニスト。
その著書には、
「The Uninhabitable Earth」 (住めなくなる地球)がある。
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HM注:全世界的に、脱炭素、脱化石燃料の声と運動が巻き起こっているが、その多くが、「格好つけ」の美辞麗句に終わる理想論、或いは偽善・詭弁の利己主義的打ち上げ花火が多く、しっかりと現実を直視し、実現可能な対策を確実に求めてゆく、と言う行動、提案が少ないのが残念ですね。
私が理解を示しており、推進の手助けをしているものに、米国スタートアップ技術会社、Mawetal LLC の特許技術による、MLF –Mawetal Liquid Fuel がある。
これは、在来化石燃料同様原油由来の液体燃料だが、その特許取得済み製造方法における製造時Co2排出量は、在来化石燃料のそれの50%~35%で済む、と言う技術で、在来石油精製設備の利用・転用が可能であり、新規設備投資を必要とせず、MLF製造コスト、利用コスト(CAPEX & OPEX)も安価であり、仕上がりコストも安価。
理想論は別として現実論として、ゼロ・カーボン燃料としての水素やアンモニアなどが技術的、経済的に汎用可能となるまでは、否応なく化石燃料も使わざるを得ないのが現実であろう中、MLFは、それまでの橋渡し役としての価値が非常に大きいものと判断しております。
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2023年09月24日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.)
米連銀、高金利長期化を予想
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(by Ben Casselman and Jeanna Smialek)
( New York Times International Edition 9/23-24/2023)
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(抄訳)
超低金利時代は終わったのか? 少なくとも、米国金融政策担当部署は、コロナ時代以前の低金利借入れコストの早期再現を予想していない。
米連銀当局は先週において、この20年間での最高金利水準となっているものを据え置き、且つ、本年末前に再利上げもありうる態勢としておくことを決定している。
英国中銀であるバンク・オブ・イングランドも、長期間のインフレ対応に腐心の末、金利据え置き及び再利上げの可能性あり、の決定を行っている。
。。。
連銀の思考のベースとなっているのは、近年の景気動向の観察結果によるものであろう。
連銀が過去1.5年に亘り、相当思い切った形で利上げを実行してきたが、その割には経済状態は微動だにしていない様相なのだ。 これの意味するところは、今後の何年間、小幅利上げがあるとして、それが経済成長の芽を摘む惧れあるか否か、と考える際、経済全体としてこれら金利上昇に耐えうる力がついてきているのでは、との見方が可能だ、ということだ。
「連銀の役員諸氏も正直驚いていらっしゃるようだ」と、ハーバード大学経済学教授、Gabriel Chodorow-Reich 氏は言う。
「つまり、この利上げ耐久力を見るに、成長を程よく管理するためには更なる利上げが必要なのではないか、又、これまでの利上げによるインフレ対策が不十分だったのでは、との観測だ」と言うのだ。
ウォール街にあっては、この連銀の新しい世界観を端的に表現し始めている ―
「より高く、より永く」だ。
しかしこの新たな高金利時代は、(全体感としては善だが)生活者には相当の負担となってのしかかってくる。例えば、自宅の購入を計画していた人々には、以前の住宅金利3%の再来を夢見ることとなろう中、連銀の引締め開始前の2.7%から、今や7%以上に上昇しているのだ。
これに加えて、不動産事業会社や更に米国政府のふところ事情にも影響を与えつつある。 彼らが抱える長期債務の利払いだけでも増え続けるのだ。
(後略)
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(HM註: 目を転じて、我々日本人の行動パターンとして、この不確実にして不安定な将来動向に如何に対応して、自分の生活と資金計画を支えて行くか、という狭い範囲での考察を簡単に ― 「ドルが高金利にして経済好景気」が続くとすれば、円安傾向が続くことになりうるが、これに対抗するためには、ひとえに、円・ドル双方への資産分散に他ならないと考えます。
我々は基本的に住宅などの円建て固定資産と、若年層の場合これに伴う住宅ローンなどの固定負債を持っており、これに対応するためにはある程度のドル資産を持ちうる範囲で持つ、と言うのが必要と考えます。
円安が続けば、ドル資産による換算額増が期待できるし、これに反して円高に戻る場合は、ネットを利用した海外でのドル建て商品・サービス ― 日常生活用に海外製品、教育を含む海外サービスのネット買い付けを利用する、余裕があれば海外旅行を選択することが可能と考えます。
勿論、現時点でも十分円安状態であり、その中で新たにドルを買うのはリスクが伴うので、少額でもドルを持っている場合、これを大事に持ち続けて、上記の様な行動パターンを、というアドバイスです。
更には、唐突なアイデアではあるが、企業の給与につき、ドル・円両建てでの支給オプションを従業員に与える、など。)
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2023年09月17日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.)
今や韓国、北朝鮮はそれぞれの同盟友好国への武器供給に動いている
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(by Choe Sang-Hun)
(New York Times International Edition 9/16-17/2023)
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(抄訳)
歴史は動き、逆転さえする ― 今や朝鮮半島の南北双方が、ウクライナ対ロシアの戦争にそれぞれの側に武器供給を行いつつある
ワシントンとモスクワは、顧みれば70年前の朝鮮半島の南北間の戦争に火を焚きつけ、それぞれの側に就く軍に武器と援助を注ぎ込んだものだ。今や、歴史は宿命のごとく回転し、ロシアと米国は、同じ北と南の協力者に呼びかけ、自らが対立、対峙することになっている、地球の裏側のウクライナ問題のために、武器の供与を強く求める現状に至っている。
プーチン大統領が北朝鮮の指導者、金正恩総書記に、ロシア極東地域において13日水曜日に会談を行い、その結果、両国が米国とその同盟諸国に対峙するための「即時協力事項」に関わる「満足すべき合意」と北朝鮮が評価しているものに到達した模様だ。具体的に、武器供与に関わる合意がなされたのかは明らかにされないであろう。
北朝鮮からの武器購入や逆に同国の軍事技術整備計画に支援の手を差し伸べるのは国連理事会規定に違反することになるし、ロシア自身その規定成立に合意しているのだ。
しかし現実には、ワシントン在米国国務省スポークスマンの一人、Matthew Miller などは、
今回の露朝トップ会談について、とりもなおさずプーチン氏が金総書記に助けを求めてきたものと位置付けている。しかし、それに呼応するかの様に、ワシントンにおいて隠密裏に結ばれた米韓交渉に基づき、韓国はすでに何か月もの間、米国向けに大量の武器弾薬を送り出して来ているのだ。
韓国は、これは、なにもウクライナ用に直接、殺戮武器を供給しているのではない、としているが、韓国が大量の武器弾薬を米国に送り込む分だけ、米国がウクライナの対露作戦用の供給武器ストックがひねり出せることになる。
いわゆる朝鮮戦争は、1953年の停戦以来、公式の戦争終結にはなっておらず、未だに両国は戦争状態にあることとなっており、それ以来ずっと軍備レースが続いており、この二国は世界の軍事大国グループに列する武器保有国となっている。+
(以上抄訳だが、記事全文と写真はファイルにあり)
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HM註)筆者は、1999年より2002年までの二年間、ソウルに駐在、韓国日商岩井社長を務めたが、その間、一度、あの39度線上に設けられている板門店非武装地帯の見学に団体で訪れたことがある。
そのものものしい雰囲気に押され気味であったが、「これが半島の現実なんだ」との実感をいだき、「これがいつの日にか解消され、もとの一つの民族、一つの国家にもどるのであろうか?」との、祈りにも似た心配感を持ちつつソウルに引き返したものだ。
今回の記事に掲載されている板門店の描写は、その、2001年当時とほぼ同じと見受けられる。
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2023年08月08日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.)
日本の「クリーン石炭」計画、疑念の的
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(by Motoko Rich and Hikari Hida)
(New York Times International Edition 8/3/2023)
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(抄訳)
Hekinan(碧南)発:
世界の先進経済諸国は今後7年間にわたり石炭使用から脱却するとの方針を明らかにしている。
しかし日本は別だ ― 日本は、地球にとってこれまでよりも害の少ない石炭を作れるのだと主張する唯一の国だ。
この国最大の石炭火力発電所がその典型であろう。
この発電所は中部日本に位置する小都市、碧南市にあり、40ものサッカー場に匹敵する敷地には、40万トンもの石炭が備蓄貯蔵されている。
JERA社がこの発電所を所有しているのだが、同社は、来春より、アンモニア(これは燃焼時に二酸化炭素を排出しない、とする)をボイラー内で石炭に混合する作業を開始する計画であることを発表している。この新技術の活用にあたり、世上においては、このような石炭のクリーンな活用方法と、石炭をできるだけ早く見限り、再生エネルギーに変更する方法のいずれが良いのか、の議論が出てきている。
アンモニア混焼手法を使えば、発電所は既存の設備を使えるので、新規設備投資をする必要が無い、と、JERA社碧南発電所の所長、谷川克也氏は言う。
ところが、(混焼ガスの使用により二酸化炭素の排出は減るかもしれないが)一方では、アンモニアを生産する段階においては炭素排出を行うわけであり、更には、アンモニア燃焼時には、酸化窒素が排出されるのであり、これは人間にとって有害であるので、もう一つの排気ガス抑制管理問題を引き起こすのだ。
E3G社(シンクタンク)のシニア政策顧問であるKatrine Petersen 氏曰く、「どう転ぶか分からない技術を模索するヒマがあるのなら、今すぐにでも石炭火力発電所の排出削減を実現すべきであろう」と。
2011年の福島での原発事故の後、日本はエネルギー問題に直面しており、世界他国が石化燃料からの脱却に動く中、日本の電力会社群は新規の石炭火力発電設備の建設に走ったのだった。 2011年以降、原発の稼働停止や、再生エネルギー・プロジェクトの遅れなどに対処するため、日本の電力業界は40カ所に上る石炭火力発電所を建設したのだ。
今春開催されたG7会議における環境大臣レベルの討議においても、日本のみが、2030年までに石炭使用をゼロに削減することを拒否したのだ。
もしアンモニア・石炭混焼技術が有効であるとしても、現在、肥料用に使われているアンモニアの供給が世界的にタイトになる可能性がある。(HM註:肥料価格の高騰、他国よりの抗議等の問題も生じて来よう。) 日本政府の主宰する「グリーン成長戦略」も認めるところとなっているのが、もし日本の石炭火力発電所全てが20%のアンモニア混焼を採用するとなると、「年間2千万トンのアンモニアが必要となる」が、これは、現在世界の国際市場で取引されているアンモニアの総量に匹敵するものなのだ。
発電所においてアンモニアを使用(一部でも)することにより、炭素排出を少しばかり削減するかもしないが、そのアンモニアを既存技術で生産するには、より多量の炭素排出を行う結果となるのだ。
要するに、日本の守旧派が自陣の利益を守るために言っているに過ぎないとみることができる。
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((HM註: 私が特許代理人を務めている、米国在Mawetal LLC社は、原油由来ながら、他の石油製品より良質にして安価、安全なる新燃料の開発に成功、日本を含む18ヶ国での特許認可を受けるに至っている。 アンモニアや水素、バイオ等の時間のかかる、且つお金のかかる、危険性もあるものに拘泥せず、この製品を使い、少なくとも、アンモニアや水素が安全、安価に使えるようになるまでの間の橋渡し役とするのが、私の推奨する手法です。 日本の石油会社、電力会社といった守旧派は自分のペースで、自分にとって都合の良いシナリオで引き続き動こうとするでしょうが、いずれかの革新派が旗を振って、思い切った現実的対処を行うことが望まれます。)
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2023年05月27日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
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豪州、中国への依存度削減努力へ
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(by Natasha Frost)
(New York Times International Edition 5/25/2023)
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(抄訳)
Pilbara Region, Australia 発
豪州キャンベラ政府はリチウム鉱石粉の海外輸出に替えて、国内での精錬を目指す考え
豪州西部の人里離れた僻地、ピルバラでは、Pilbara Minerals (ピルバラ・ミネラルズ)社の広大な精錬工場が広がり、大量のリチウム鉱石泥水が搬送パイプ内を流れる中、大気には赤い粉塵が舞っている。
この工場では、近くの採石場から集積された鉱石をspodumene(スポデュメン=リチア輝石)に加工する。
スポデュメンは、緑水晶風の粉末、約6%のリチウムを含有し、トン当たり約5700ドルで売られるものだ。この地からスポデュメンは中国に輸出され、そこでの精錬過程を通して、携帯電話や電気自動車の電池生産用に使用される。
豪州は世界のリチウム生産の53%を採掘しており、その全量と言えるほどの量を中国に輸出している。 しかし今や豪州政府は、このグリーン革命の原動力とも言える鉱物の精製につき、手放しで中国に依存する体制を破りたい気持ちを持っている。
同国最大のリチウム採掘業者であるピルバラ・ミネラル社は、この電池用化学品の生産を、その材料となるリチウムの採掘と共に、近場の国内で完結させることにより、同盟諸国としての米国や韓国に直接販売とする新しいビジネス・モデルを打ち立てるべく作業中の鉱山会社の一である。
一方では、豪州における労働・勤務制度が企業にとって厳しいものであるだけに、中国との価格競争において不利となるとの指摘もあるが、同国業界筋としては、それだからこそ、
より信頼性の高い上質品種として競合できるのだ、との主張も見られる。
ピルバラ・ミネラルズ社は既に、豪州の技術会社Calix社と協力し、直接精錬を検討しており、本年末までには、70億豪州ドル(47米ドル)の投資を行い、デモ・プラント建設を検討している。
先週のG7会議において、バイデン大統領とAlbanese(アルバニーズ)豪州首相は、クリーン・エネルギー用重要鉱物製品のサプライチェーン強化への協力案件を公表した。
2023年05月03日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
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Why I don’t worry about nuclear waste
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(by Madison Hilly)
(New York Times International Edition 4/29/2023)
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「核廃棄物なんて怖くない!」 ― マディソン・ヒリー(「グリーン原子力事業運動」= Campaign for a Green Nuclear Deal) 提唱者)
(抄訳)
ニューヨーク州選出の下院議員アレクサンドリア・オカシオーコルテス氏がこの2月に、日本の福島原発メルトダウンの現場となった場所を訪問した際の、同氏の言動は目新しいものであった ― 彼女は、放射能被爆や核廃棄物処理と言った問題につき、不安を煽ることなくむしろ淡々と発言したのであった。
彼女が自らのインスタグラム・フォロワー、860万人に伝えたのは、今回の当地訪問で受けた放射能被爆量は、レントゲン検査を2回受けたものと同水準であったことは、今回の訪問で受けた教育の成果であった、と。彼女は続けて、フランスの例を賞賛しつつ引用し、「(フランスは)核廃棄物の再処理を行ない、そうすることにより原発管理上の効率を向上させ、放射性廃棄物の全体量を削減している」とした。
振り返れば、これまで進歩系議員群は、関係諸団体と声を一にして原子力発電への反対論を発言してきている ― 多くの場合、放射性廃棄物の危険性、長寿性、要貯蔵性に焦点を合わせて。
2020年の大統領選挙運動に際してのバーニー・サンダース(バーモント州)候補然り、エリザベス・ウォーレン(マサチューセッツ州)候補も。
そして多くのアメリカ国民は核廃棄物の存在とその処理につき、巨大にして恐るべき脅威とみなすに至っている。
しかし私は、多くの技術者、放射能専門家、廃棄処理管理者群と対話を重ねた結果、前段に例示した様な誤解が、気候変動問題に対処するための強力にしてクリーンなエネルギー源を心から遠ざけてしまっていることに気づいたのである。我々は、核廃棄物を、危険な課題と見るのではなく、代わりに、脱炭素電力より産み出される安全な副産物であることを理解するべきだ。発電エネルギーをいち早くクリーンなものにした諸国は、多くの場合、水力発電か、原発か、或いはその双方を活用して実現している。
原発の最大のメリットは、広大な敷地を必要としないこと、更には、天候、時刻、季節を問わず稼働できることだ。
風力や太陽光ではそうはいかない。IEA(International Energy Agency =国際エネルギー機関)の見解では、2050年までにゼロ・カーボンを達成するためには世界の原子力発電量を倍増することが必須である、としている。
このため、米国の投資家群、政治家群、そして映画監督のオリヴァー・ストーン氏も、原発能力の急拡大を提唱している。政府補助による原発の新設、過去に行われた原発新規建設禁止令の取り下げ、等は進行中で、ワイオミング州では、現存の石炭火力発電の原発への転換を検討中である。
色んな課題が原発につきまとっていることは確かだ ― 建設資金、建設期間や予算の順守等 ― しかし、核廃棄物処理問題が障壁となっていけない。いかなる災害 ― 暴風、大洪水、超高熱、ミサイル攻撃までも ― にも100年耐えうる貯蔵棺があるのだ。100年経てば新しい棺に置き換えてゆけば、一世紀毎に寿命が延びるのだ。
これまでに、核廃棄物貯蔵棺に随伴した死亡・障害事故、或いは、深刻な放射物質の大気への漏洩事故は一切起きていない。
そしてこれは、今世間において騒ぎ立てられているところの、原発より定期的に海洋投棄されている、トリチウム含有の廃棄水についていっているのではない。
これはそれ以前の論外の軽い問題であるにも関わらず、原発反対運動家群が針小棒大に騒いでいるにすぎない ― 事実としては、福島原発から海洋投棄されようとしている処理済み廃棄水を人間が1ギャロン飲んだとしてもそれは、バナナ一本を食べることによって摂取される放射物質と同じなのだ。
一方、私が取り上げている核廃棄物は十分に長期間安全に貯蔵可能であり、且つ、その間、放射能力はゼロに向かうのだ。
これと比較すれば、アンモニアははるかに危険である。
2010年以降においても、何百と言う障害事故(死亡事故も多く見られる)もあるに関わらず、何百万トンものアンモニアが生産され、パイプライン、船舶、貨物列車により輸送され、肥料用原料として利用されているのだ。
(HM 注; 本記事のおいてはアンモニアについては上に述べるような内容にとどまっており、現下の、アンモニアを脱炭素用の燃料として使用するという展開についての言及は無い。)
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(HM註: この見解がどの程度、科学的に信頼できるのかの検証が必要と考えます。 又、理屈としては通るのかもしれないが、福島の人々に留まらず東日本の国民全員が、あの2011年の「核拡散」の恐怖に慄いた実体験からして、「ああ、そうですか」とは言えない、と言う心理があまりにも強いので、この「ちょっと見」の後の意見にはなかなか付いていけない、というのが正直なところと感じます。)
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2023年04月03日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.)
How the banking crisis will affect the global economy
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(by Paul Krugman)
(New York Times International Edition 3/23/2023)
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「昨今の銀行破綻が世界経済に与える影響は?」 ― ポール・クルーグマン
(抄訳)
シリコン・ヴァレー・バンク(Silicon Valley Bank = SVB)は、巨大企業ではないがIT産業の金融環境を提供する重要構成メンバーではあったが、同行は、古くからの銀行危機現象である取付け騒ぎに直面したため、FDIC(米国連邦預金保険機構)の管理下に置かれることとなった。
シグナチャー・バンク(Signature Bank)もこれに続き、ファースト・リパブリック・バンク(First Republic Bank)も厳しい監視圧力の下に入ることとなっている。
スイス政府当局は、クレディ・スイス社を、同社のライバル銀行であるUBS社による吸収合併という救済策を発表している。
かかる情勢下、金融・産業界は、次の地雷はどこにあり、いつ爆発するのか、気が気ではないようである。
これらの銀行破綻危機が世界経済に与える影響はいかなるものであろうか?
古くから、取り付け騒ぎが発生する場合は、その結果はおおむねインフレの反転、更にはデフレへの突入傾向が考えられ、例の1920年代の「大不況」にあって発生している。
1980年代に起きた、中小預金貸出銀行(savings and loan banks)の一連の蹉跌にあっては、「大不況」レベルの事由には至らなかった ― その理由は、一般預金者が(FDIC などによる)保険で守られていたからだ。
しかし、それなりの信用収縮が不動産業界を中心に起こり、1990-91年の景気後退(リセッション)に繋がったことも事実だ。
そして2008年の金融危機は、主として闇金融レベルの(伝統的金融機関ではなく)蹉跌が重なり、一連の取付け騒ぎに至ったものであったが、いずれにしてもインフレよりの反転
(disinflationary)により、「大不況」以来の最悪の不景気をもたらすこととなった。
今回の預金者(企業、個人とも)達は、昔のように現金をとにかく引き出し、タンス預金としてしまい込む、と言う行動パターンではなさそうであるが、少なくとも、中小の銀行から大手の銀行に預金を移したり、大手投資銀行のMMF(Money Market Fund)に資金移動させたりはしている様で、かかる大手金融機関は、資金安全規制法制も考慮し、貸し出しを押さえる傾向となろう故、FRB(連邦準備委員会)による利上げと同種の金融タイト化につながる可能性があるとみられる。(HM: これは実質、FRBの金利引き上げと同様の効果を持つに至るであろう。)
結論としては、現下の動きは、全面的な金融危機に繋がる様ではない。 ま、しかし、油断は召されるな。
(HM 注:この記事の後、英国大手銀行、バークレーズ・バンク = Barkley’s Bank
の株価急落に注目が集まっているが、その帰趨は本日現在 ― 4/3/2023 ― 不明。)
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2023年01月06日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.)
Outrage in Pacific at radiation dump plan
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(by Pete MCKENZIE)
( New York Times International Edition 1/3/2023)
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「南太平洋諸島国、日本による核汚染水投棄に対し怒りの声」
(抄訳)
あの2011年の悲惨なメルトダウン以来今日に至るまで、日本の福島第一原発は毎日、
その破壊された原子炉の温度を冷却するため、何百トンもの水を流し通し続けている。
その結果、高度汚染された冷却水は何百と言う貯水槽に貯蔵されており、それは、原発の中の巨大迷路の如き光景を作り出している。
以来10年、水は溜まり続けている。しかし今や、130万トンの上る貯水量となり、日本政府は場所がなくなってきている。 そこで来る本年春には、他国もやったことがあるように、この汚染水を、放射性物質のほとんどを処理した上、海洋投棄する予定だ。
日本政府は、他に可能な代案が無いとして、安全基準に万全の注意を払うことを確約した上、投棄を実行することを言明している。
しかしこの手法に対し、日本の近隣諸国は懸念を増大させている。昨年11月には、南太平洋諸国、マーシャル島、オーストラリア等の12ヶ国以上より、この投棄計画を延期するよう抗議が出てきている。
ピースボート・グループをはじめ、投棄に抗議する諸団体、政府機関は、南太平洋は元々1954年に行われた米軍によるビキニ礁水域での核実験で被害を受けており、日本の漁船
(HM注:第五福竜丸)も巻き込まれているのに、その日本が今なぜ? 加えて、世界で唯一の被爆国である日本が核廃絶を声高に謳いあげながら、なぜ? おかしいではないか、
自己矛盾だ、裏切りであり正義に悖るとの声を上げる。「この無責任な行為は、太平洋諸国の人々への核戦争布告と同じだ!」と。
一方、日本当局の説明は、あらゆる対策は取るものであり、唯一、トリチウムだけは排除できない性状であるが、これを希薄化することにより、通常の医療検査、航空機による旅行、食物の一部と同程度の被爆量となるに過ぎない、と言うもの。 IAEA(国際原子力エネルギー機構)のR.M.Grossi事務局長は、「日本の対処方法は、世界中の慣行に合致するものである。もっとも、福島での大量の水は、ユニークであり複雑でもあるが」、と述べている。
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(HM註:本記事では、更に踏み込んだ分析、報告も行われており、詳細は本記事を参照願います。本記事全文当方にても保管しています。いずれにしても、他国からの懸念は当然であろうし、国内においても漁業関係者、原発懐疑派からも反対の声が出ている。
これに対処するには、徹底的に開かれた説明と、IAEAや国連よりの客観的意見を提示することが必要と思われます。)
2023年01月04日 鵜の目鷹の目、世界の目
(Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye, Embrace the views of the world.)
How fusion can secure our future
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(by Sabine Hossenfelder)
(OPINION - New York Times International Edition 12/19/2022)
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「核融合技術は如何にして人類の安全を保障してくれるか」
(抄訳)
去る12月5日、カリフォルニア州在 Lawrence Livermore National Laboratory にある
国立点火施設(National Ignition Facility - NIF )において、192本のレーザー光線が
ジェリー飴容器大の金製シリンダーに向けて同時発射された。微細な精密度でもって、
キャプセルはレーザー光線を一粒の凍結水素に集中照射した。そして何分の一秒という瞬時において当該水素の温度は、太陽の中核における温度を上回るものとなり、水素原子の中核がお互いに融合するに至ったのだ。この実験プロセスにおける投入エネルギー量2.05
メガジュールに対し、排出エネルギー量3.15メガジュールと、エネルギー純増が確認されたのだ。
ニューヨーク州選出上院議員チャールズ・シューマー氏は、この実験成功をもって、人類の未来を予言するものと宣言し、「この驚異的な科学技術の進歩は、人類がもはや化石燃料依存を脱し、新しいクリーン融合エネルギーによる活動が可能となることを指し示すものだ」と述べた。
しかしながら、このレーザー技術は現在恐ろしく非効率であり、レーザー照射に要する準備エネルギーは300メガジュールなのだ。コストと実用化への時間は膨大なものであり、果たしてこの技術が地球環境にとっての福音となりうるのか、考えものだ。
例えば、テキサス技術大学の気候学者、Katharine Hayhoe 氏は福音説を否定して曰く、「もう現在において、2030年までに電力業界の80%を脱炭素するに必要な技術があるのだから。」
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(HM コメント: 現在、種々の脱炭素化への手段が謳われている ― アンモニア燃料、水素燃料等 ― が、この核融合技術も含め、常に明確な問題意識を持って判断しなければいけないのは、現実と理想の葛藤であろう。気候変動への対策は時間との勝負でもある、しかし又、長い宇宙空間での時間軸にあっては、30年、50年、100年をかけての努力も、世代を超えて実行すべきものでしょう。
10/30/50/100年それぞれの時間軸において、もろもろの選択肢を追求するしかないものと判断します。 尚、本欄に掲載済みの、2021/10/20の記事も参照下さい。
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