モリシップランの万葉集英訳

鵜の目鷹の目、世界の目!

「世界を見る目」を養おう! それも一方向からの見方にとらわれず、水中からや地べたから空を見つめているであろう鵜の鳥の地道で懸命な目線も忘れず、空から地上を俯瞰する鷹の鋭い大局観にも学びつつ、世界の諸問題を一緒に考えようではありませんか? そして独りよがりに陥らず、他者の意見も取り入れ、世界の批判も受け入れながら、より良い日本社会を作り上げるべく一歩一歩進もうではありませんか? 
=Look up from under the water and from the ground with a cormorant’s eye,
=Look down from the sky on the whole scene with a hawk’s eye,
=Embrace the views of the world.

***
私は38年間にわたる商社生活(この内23.5年間の海外生活)と12年に及ぶ造船所生活、そしてその間、様々な異業種交流・国際交流を経験し、現在は、個人勝手事務所を設営し、自らの経験なり僅かながらの知見を次世代に伝えることにより、仮にも、若い人たちの思考、姿勢が停滞気味、閉鎖状況にあるものであれば、これを開き背中を押すようにしたい、との願いを持つものです。大それた物言いをいう様ですが、已むに已まれぬ思いに突き動かされての妄言であります。 ご寛恕頂き、仕事に、生活に、海外との交流の場の一つのヒントとして、お読みいただければ幸甚です。 私は、過去半世紀以上にわたり、米、英、日の地において、New York Times、 (London)Times、Economist、日本経済新聞等をフォローしており、勿論他にも多数の有力紙があるなか、可能な限り幅広い考え方を取り入れ、ビジネスの指針の一としてきております。 まだまだパンデミックは収まらず、自らの行動にも制限を加えなければならない中、そして個人での行動範囲、容量には制約もあり、先ずは、NYTをベースにして、「こう言ってますよ、こういう見方もありますよ」という記事を抄訳スタイルで紹介し、時には私自身の意見、論評も加えつつ、皆さんとの意見の交換をできれば、と願っております。 2021年9月から始めており、アップデートしてゆきます。
モリシップラン 森島英一
***

TABLE OF CONTENTS

2021年12月24日 鵜の目鷹の目、世界の目
<パウエル連銀議長のインフレ政策姿勢:「最新情報により修正」> 
New York Times International 12/17/2021

(記事全文と写真はファイルにあり)
By Neil Irwin (ニール・アーウィン 記)
        ――――――――――――――――――――
インフレ現象は米国において既に何か月もの間、積もり積もっていた。 だが、ジェローム・パウエル連銀議長が、このインフレを阻止すべく、対策を取る必要があると決意したのは、今秋に入ったばかりの13日間のことである。同氏の立ち位置はこうだ ― 彼は、自分の政策姿勢を崩す確証が現れない限り、世間の雑音をものともせず、当初に選んだ道を突き進むのだ、しかし、一旦、情勢が変化したと示唆するデータが現れるや、即刻方向転換することを躊躇しない、といったところだ。

連銀政策決定会議は、水曜日(12/15)に、中銀による国債購入オペの早期中止と、利上げ政策を11月初めに想定した時期よりも早める政策変更を公表したのだ。つまり、連銀幹部が今夏言い続けてきたこと、インフレは一時的現象に過ぎない、との見方は今や過去のものとなったのだ。

この姿勢変更を促したのは、数ある経済指標の中でも10/29に確認された企業の雇用経費指標の急上昇だ。 この指標に加え、二つの要因が明らかとなるに至り、インフレ・リスクの深刻化を突き付けることとなった。 
一つは、急上昇する雇用創出傾向とこれに伴う失業率の低下が11/5のデータで確認された。
二つ目は、11/10 に確認された消費者物価係数の急上昇であった。これらの証左により、パウエル氏は先週の議会証言においてタカ派政策への転換を述べるに至った、ということだ。

(以下、要約)

★求人増 ⇒ 賃金アップ ⇒ コスト・アップの価格転嫁 ⇒ 物価アップ と言う「賃金・物価上昇スパイラル」は、米国において1960年代から1980年代にかけて持続していた現象だ。

★金融政策における方針変更は、パウエル執行部が2018から2019にかけて、今回と丁度逆の方向で行っている。パウエル氏は自らを称し、「機を見るに敏なり」としているものと判断される。これは、あのジョン・メイナード・ケインズが言ったという、「事実と事情が変われば、私は自分の考えも変える ― さもなくば、どうすればいいんだね?」
に繋がる姿勢だ。

★パウエル議長の任期延長の是非を討議することとなる上院議員群は、こういったパウエル氏の政策姿勢 ― 特に今回の行動に表れている ― につき、「早すぎたのか? 遅すぎたのか? 或いは、ちょうど良かったのか?」を考えることとなる。
――――

(鵜の目)― 世の中を水中から、あるいは地上から見て
(鷹の目)― 世の中を空高く上から見渡し
(世界の目) ― 世界を見渡し、世界の視線も吸収しつつ考えよう!

2021年10月30日 鵜の目鷹の目、世界の目
<物価上昇がバイデン政権の足枷に?>

New York Times International 10/28/2021

(記事全文と写真はファイルにあり)
ワシントン発 Jim Tankersley
バイデン大統領の側近や顧問団は少なくとも週に一度、ズームによるオンライン会議を開き、現下の米国におけるサプライチェーン危機の打開策を協議する態勢を取っている。 会議での話題は、全国の港湾における荷揚げ作業の滞留状況の解消、自動車業界を悩ませている半導体の生産、供給のかさ上げ、物流ネックの一因となっているトラック運転手の増強、といったところだ。 
会議の目途するところは、一つ、景気回復への足を引っ張り、消費者心理を乱し、それがためバイデン氏の支持率を引き下げることとなりかねない「物価上昇」を抑えることである。
当初は、パンデミックの影響による景気停滞の一時的な反動に過ぎないとしていた物価上昇も、今や、来年にまで持ち込む様相を呈しており、食糧、ガソリンその他の生活物資の急速にして継続的なインフレ ― 今世紀最大の ― になることを認めざるを得ない状況だ。 {HM注:日本ではインフレ傾向はこれから}
最近の世論調査によると、企業の景気見通しの冷え込みは、生産活動支援、失業率低下、貧困家庭救済策、教育支援等、一連のパンデミック対策を帳消しにするような打撃を与えつつあり、これがため、大統領支持率は急落状態となっている。
(以下、項目別抄訳)
*プラス面: 労働者賃金は過去20年で最大の上昇、景気刺激策による成長率上昇、米国の景気回復は先進国中最大。
*マイナス面:インフレと供給不足、自動車価格の急騰、ガソリン価格7年来最大の高騰、 物流の停滞による家具など生活資材の滞留、食品価格の上昇、等々。
*クリントン政権、オバマ政権と民主党政府の実務的支柱となっていたローレンス・サマーズ氏も、バイデン政権のパンデミック対策としての景気刺激策がやりすぎで、且つマイナス面の対策(物流他)を講じることなく決行したことによるツケが回って来ていることを憂慮する発言を出している。 このままでは、制御不能のインフレ・リスクとなりかねない、との心配をする筋もある。
*元 連保準備銀行(FRB)総裁で、現 財務長官のジャネット・イエレン氏は、インフレ傾向は来年後半には改善に向かうだろうと。
*米国民は過去40年近くインフレを経験することも心配することもなく現在に至っているわけだが、それだけに現行のインフレ状態に異論を唱える向きが多い(特に共和党サイド)。 {HM注:日本の若い世代も、バブル崩壊以降、30年にわたりデフレしか体験していない}
*民主政権側の言い分は、物価上昇が制御不可能になることはなく、従って、FRBが突如金利の引き上げに踏み切って、成長に急ブレーキをかけるような事態にはならないと確信している、というものだ。 いずれにしても物価上昇は中間選挙のかなり前には収まるだろう、と。今、インフレ、インフレと騒がれているのは、景気刺激策が功を奏し、経済成長と雇用改善が進み、本当は大事なポイントであるところの、国民の雇用確保が満たされ、論議の的でなくなったので、その裏面の話をしているだけなのだ、と。-
――――
(鵜の目)― 世の中を水中から、あるいは地上から見て
(鷹の目)― 世の中を空高く上から見渡し
(世界の目) ― 世界を見渡し、世界の視線も意識しつつ考えよう! ――――

2021年10月20日 鵜の目鷹の目、世界の目
「核融合技術、主流に近づく」

New York Times International Edition 10/20/2021
From Abingdon, England:
大勝負マネー、星エネルギー技術開発を目指すヴェンチャー群に流入

「核融合技術をかさ上げ開発し、商業レベルの利用へ」、との動きは、今後何世紀もの長期にわたり、石化燃料にとって代わるべきクリーンな動力源の「究極的確保」を目的とした「究極の試み」の打ち上げとみなされてきていた。
しかし今や、核融合エネルギーに対する投資家の関心が静かながら上がりつつあり、この分野におけるスタート・アップ・ヴェンチャーの数も倍倍増しつつあると同時に、すでにこれらの企業で生業をなす人たちの数も、数か国において1100人ほどと見られている。 新しい産業部門が生成されつつあると言え、例えば、融合装置が必要とする強力な磁石の部品と言った高度精密機器を製造販売する企業群のネットワークも拡大しつつある。
英国政府はこのところ核融合エネルギー関連の規制法まで検討する必要に迫られて来ている ― 新しい産業の芽吹きの標(しるし)とも言えよう。
現下においては、核融合エネルギーがいつ商業採算に乗りそうか誰にも分からないが、増えつつある関連民間投資を突き動かしているのは、地球温暖化への危機感の高まりだ。
「気候変動危機に対処するに、これ以上良い計画は誰も持っていないのです」と、語るのは
デヴィッド・キングハム氏だ ― 主として民間資金により2億ドル(215億円⇒当時の為替相場による)を調達した企業、「トカマック・エネルギー」社の共同設立者3人の内の一人。

1990年代初頭より今に至るまで、核融合ヴェンチャー企業数は急速に増えつつある。 FIA(核融合産業協会)理事長、アンドリュー・ホランド氏いわく、現在、米国、英国、フランス、カナダ、中国等各国に、少なくとも35社があり、これら諸社をあわせて、主として民間資金19億ドル(2200億円)が調達済みとなっている由(近々公表予定の同協会及び英国原子力エネルギー庁の調査結果による)。
トカマック・エネルギー社が企図するのは、水素アイソトープ(同位元素)を極限まで熱し、これにより水素原子が融合し、巨大なエネルギーを放出することを実現するものだ。 これがいわゆる核融合の本質であり、太陽と星の裏にあるエネルギーと称されるものだ。
同社の実験工場は、イギリス、オックスフォード郊外の産業団地内にあり、厳重な監視体制しいた社屋において実証実験が進行している。同社のプロトタイプ設備は5千万ポンド (75億円)を費やして建造した。其処では、現在、摂氏1100万度の高熱度を出すことに成功しているが、究極的には、年内において、摂氏1億度を達成することとなる。 これは、太陽の中核温度の7倍の高熱度なのだ。
(以下、要目のみの抄訳)
*トカマック社の推定企業価値は、今や、3.17億ポンド(500億円)。
*これらヴェンチャー企業のやるべきことは、複数の里程標(milestones)を設定、明示し、 里程ごとに投資家の理解を得ながら次の段階に進むこと。
*トカマック社の次の目標は、10億ドル(1150億円)のパイロット・プラントの設備投資。
*デヴィッド・ハーデイング氏(投資会社)曰く、「世界中で核融合プロジェクト はたくさんあるわけではない一方、投資家はいっぱいいるのだ。」
HM注:極高熱を出すことにより核融合を産み出し、これにより電力その他のエネルギーを生産する、との図式の様だが、素人の目には、「そういった超高熱を出すこと自体、厖大な電力が必要であろうし、生産過程においては膨大なCO2の排出を伴うのではないか? 又、安全対策は?」との疑問あり。 ―――

2021年9月19日 鵜の目鷹の目、世界の目
[NYTI 9/18-19/2021] OPINION by Spencer Bokat-Lindell, staff editor, Opinion New York Times International 10/28/2021

昨今の政治家や経済学者が気候変動への対処法を考えるとき、主流となるパラダイムがあるとせば、それは「グリーン成長」(green growth)と呼ばれるものだろう。 グリーン成長理論は、欧州各国政府、OECD、世界銀行、米国政府に提唱者・支持者が多いが、その考えは、世界経済は継続的成長と地球温暖化の脅威の緩和を同時に遂行できる ― 敏速にして効率的な市場機能を活かした環境対策と技術革新により ― と言うものだ。
一方近年、対抗するパラダイムが勢いを得つつある ― 非成長(de-growth)論だ。
非成長派理論にあっては、人類はそもそも化石燃料よりの段階的撤退を実現しながら、先進経済圏の拡大し続ける需要に対応するという離れ業を行うことはできなくなっている、と言うのだ。 この期に及んでは、消費自体を削減するしかない、と。

この動きは台頭しつつある ― 2019年には、1万1千人以上の科学者が協力して公開書簡を発表している ― その中身は、「GDP成長一辺倒」主義から「生態系の保護と人類の幸福度の改善へのパラダイム・シフト」を呼びかけるものだ。 
そして去る5月には、「Nature」誌に論文が発表され、「非成長論をより幅広く、より深く検討すべき ― リスクを伴う技術先行型未来像だけでなく」との主張がなされた。

非成長運動の最も著名な提唱者であるとみられるジェイソン・ヒッケル(Jason Hickel)氏は、経済学・比較人類学者にして、「Less Is More: How Degrowth Will Save the World」
(少ない方がいいのだ!: 非成長が世界を救う日)の著者である。
―――
{HM註:この数年の世界の論調、そして企業の投資方針、政府・行政の経済・環境政策は、脱炭素、De-carbonization 一辺倒だが、具体的時間軸、実効策がはっきりしないままの掛け声先行となっていると思う。 グリーン成長か、非成長か、或いはその中間策、橋渡し役があるのか?}
―――

モリシップラン・オフィス
PC address: morishima@morishiplan.com
URL: http://www.morishiplan.com